期間:2023年9月1日(金) – 9月24日(日)
日東堂は、「日本の藝と道具」の未来を担う作り手を応援しています。
12 回目となるこの度の展示では、
金工 須原健夫さんと陶芸家 田中瑞絵さんの作品が並びます。
![](https://nittodo.jp/wordpress/wp-content/uploads/2023/08/DSC_7888.jpg)
まずは、金工 須原健夫さんをご紹介します。
須原さんの真鍮のカトラリーは
まるで工業製品のように
精緻で正確な仕上がりでありながら、
どこかあたたかく優しい印象を受けます。
匙の曲面、持ち手の角の処理、左右対称のフォルム。
手作業の痕跡をどれだけ残さないように努めても、
完全に消えることはありません。
そのわずかな手の印象と、
正確無比な造形が響き合う位置に、
須原さんの作品はこれまでありました。
写真は、そのような定番のカトラリーとは別に
この度あたらしく須原さんが
挑戦しようとした領域の作品です。
先端の部分は従来のカトラリーに近い仕上がりですが、
随所にわずかな歪さを残しています。
そこには古代に使用された純粋な道具、
人の用に応えるためだけにつくられた道具に対して、
須原さんが持つ憧憬が感じられます。
一目でわかる手の痕跡をこれまで禁欲的に避けてきた須原さんが、
内に秘めてきた感覚を少しでも作品に含ませることには、
大きな勇気が必要だったことでしょう。
これらの作品は、なぜ手でつくるのか、
という根源的な問いに対しての
須原さんの推敲の軌跡と言えるのではないでしょうか。
![](https://nittodo.jp/wordpress/wp-content/uploads/2023/08/DSC_7899.jpg)
次に陶芸家 田中瑞絵さんをご紹介します。
無彩色に近い色による多様なグラデーション、
ガラス質の釉薬のテクスチャは
表面の色彩だけにとどまらず、
三次元的な奥行きが印象的です。
これらは主に磁器土をベースにした
泥漿(泥のように液状化した土)を
石膏型に流し込むなどして成型する
鋳込み(いこみ)という手法でつくられます。
本来、鋳込みという製法自体は、
装飾の多い人形などの造形物をつくる目的と、
同型の作品の量産という目的があります。
そのように複製を前提としたつくり方でありながら、
田中さんはそこから手作業で作品を仕上げていきます。
また、焼成の際には炭化焼成という偶然性の高い手法を取り入れます。
具体的には焼成中の窯の中に、
もみ殻などの可燃物を入れる事で
煤による黒色をランダムに作品表面に定着させる方法です。
鋳込みによる同型の作品をベースとすることで、
手を加えて生まれるそれぞれの色彩やディテールの差異がより引き立てられ、
作品に多様性を持たせています。
![](https://nittodo.jp/wordpress/wp-content/uploads/2023/08/DSC_7858.jpg)
自然に作為はありません。
よって自然物における差異とは、
外的要因の違いのあらわれに過ぎません。
しかし時にものづくりにおいて、
人の手がその作為を感じさせないほど純粋な、
単なる外的要因として作用することで、
あたかも作品が自然物のような
側面を見せることがあります。
均一なものを複製するという
ある種の工業的なプロセスの中に、
手の痕跡を含ませていくという事は、
人為と自然のあわいに引かれた一本の線を
指でこすって、曖昧にしていくような
プロセスと言えるでしょう。
そして、その境界をどこに設定するかという決定の基準を、
ひとつの作家性と呼ぶことが許されるとしたら。
それぞれの作家性が今回の展示でどのように響き合うか、
ぜひご覧いただければと思います。