2023.08.23

【展示・販売】手仕事のさきへ12 ー須原健夫・田中瑞絵ー

期間:2023年9月1日(金) – 9月24日(日)

日東堂は、「日本の藝と道具」の未来を担う作り手を応援しています。

12 回目となるこの度の展示では、
金工 須原健夫さんと陶芸家 田中瑞絵さんの作品が並びます。

まずは、金工 須原健夫さんをご紹介します。
須原さんの真鍮のカトラリーは
まるで工業製品のように
精緻で正確な仕上がりでありながら、
どこかあたたかく優しい印象を受けます。

匙の曲面、持ち手の角の処理、左右対称のフォルム。
手作業の痕跡をどれだけ残さないように努めても、
完全に消えることはありません。
そのわずかな手の印象と、
正確無比な造形が響き合う位置に、
須原さんの作品はこれまでありました。

写真は、そのような定番のカトラリーとは別に
この度あたらしく須原さんが
挑戦しようとした領域の作品です。
先端の部分は従来のカトラリーに近い仕上がりですが、
随所にわずかな歪さを残しています。
そこには古代に使用された純粋な道具、
人の用に応えるためだけにつくられた道具に対して、
須原さんが持つ憧憬が感じられます。
一目でわかる手の痕跡をこれまで禁欲的に避けてきた須原さんが、
内に秘めてきた感覚を少しでも作品に含ませることには、
大きな勇気が必要だったことでしょう。

これらの作品は、なぜ手でつくるのか、
という根源的な問いに対しての
須原さんの推敲の軌跡と言えるのではないでしょうか。

次に陶芸家 田中瑞絵さんをご紹介します。

無彩色に近い色による多様なグラデーション、
ガラス質の釉薬のテクスチャは
表面の色彩だけにとどまらず、
三次元的な奥行きが印象的です。

これらは主に磁器土をベースにした
泥漿(泥のように液状化した土)を
石膏型に流し込むなどして成型する
鋳込み(いこみ)という手法でつくられます。
本来、鋳込みという製法自体は、
装飾の多い人形などの造形物をつくる目的と、
同型の作品の量産という目的があります。

そのように複製を前提としたつくり方でありながら、
田中さんはそこから手作業で作品を仕上げていきます。

また、焼成の際には炭化焼成という偶然性の高い手法を取り入れます。
具体的には焼成中の窯の中に、
もみ殻などの可燃物を入れる事で
煤による黒色をランダムに作品表面に定着させる方法です。
鋳込みによる同型の作品をベースとすることで、
手を加えて生まれるそれぞれの色彩やディテールの差異がより引き立てられ、
作品に多様性を持たせています。

自然に作為はありません。
よって自然物における差異とは、
外的要因の違いのあらわれに過ぎません。
しかし時にものづくりにおいて、
人の手がその作為を感じさせないほど純粋な、
単なる外的要因として作用することで、
あたかも作品が自然物のような
側面を見せることがあります。

均一なものを複製するという
ある種の工業的なプロセスの中に、
手の痕跡を含ませていくという事は、
人為と自然のあわいに引かれた一本の線を
指でこすって、曖昧にしていくような
プロセスと言えるでしょう。

そして、その境界をどこに設定するかという決定の基準を、
ひとつの作家性と呼ぶことが許されるとしたら。

それぞれの作家性が今回の展示でどのように響き合うか、
ぜひご覧いただければと思います。