2022.05.02

【展示】手仕事のさきへⅣー中根楽ー

期間:2022年5月14日(土)-5月29日(日)

日東堂は、「日本の藝と道具」の未来を担う作り手を応援しています。

4回目となる今回は滋賀で作陶されている陶芸家 中根楽氏をご紹介いたします。

表面が細かなひびに覆われた皿や花器などの陶器。
このひびは、いちばん外側に吹きつけた土と、下地に使用された土との焼き上げた際の収縮率の違いによって生まれるものです。
吹き付ける土の厚みが厚すぎると剥がれてしまい、また薄過ぎてもうまくひび割れないため微妙な加減が求められます。
さらに手作業による吹き付けの自然なムラがそのままひびのムラとなって作品の表情に深みを与えています。
ひびに染み込んだ黒の釉薬と白い陶土の明快なコントラストは、
その古びたような質感と現代的なフォルムのコントラストと響きあって、心地よい緊張感をたたえています。

この特徴的な作風は「ひび化粧」という仕上げであり、作家の自然観との深い結びつきのもと生まれたものです。

中根氏の創作の源泉には、幼少期から身近に触れてきた豊かな山川草木の風景があります。
朽ちた木や、長く雨風にさらされた石などが持つ、堆積した時間がそのまま層になったような質感。
そのようなものへの憧憬を下地につくられる器は質感だけでなく、
形さえもどこか自然物のようでありながら、人の手の痕跡のある不思議な均衡を保っています。

自身の作品と向き合う時、「そこに違和感がないかどうか」が非常に大切だと言います。
違和感のない状態にまで洗練された作品は作家の自然観を映す鏡のようなものであり、
だからこそ自然物 / 人工物の曖昧な境界を感じさせるのでしょう。

その曖昧さは中根氏が作陶において、道具とそうでないものをつくる際に意識していることとそのまま重なります。

使用を前提とした道具としての作品と、特別な用途を与えない造形物としての作品、
それらの境界は明確ではなく本来グラデーションがあるはず、と中根氏は言います。

それは例えば石のような器と、器のような石の間に横たわる境界の曖昧さのようなもの。
曖昧なものは、そのあやうい均衡を保っているからこその美しさがあります。

自然物のような道具と、自然物に近いオブジェの制作を通して、自然物と人工物の間の階調をより豊かにする。
中根氏の手しごとは、私たちの自然物へのまなざしをも変えるきっかけとなるかもしれません。

ぜひ、直接手に取ってご覧いただき、体験していただければと思います。