2022.03.20

【展示】手仕事のさきへⅢー鈴木まどか・大原萌ー

期間:2022年3月19日(土)-4月3日(日)

日東堂は、「日本の藝と道具」の未来を担う作り手を応援しています。

このたびの展示では二名の女性作家の作品をご紹介致します。

お一人目は磁土のうつわを製作する鈴木まどか氏です。
鈴木氏の製作する磁器の特長はひとえにその表現の多様さにあります。

緻密で正確な技術が一目で感じられる菊割の皿、
紋様がエンボスのように浮き出た陽刻の施されたうつわ。
絵柄の滲みを生かした安南手、
使い込まれたようにも見える味わい深い表情をたたえた磁器。

安南手(あんなんで)とは、古くはベトナムから伝わった手法で、
中国の磁器の不完全な模倣がもととなっており、
滲みは当時の未熟な技術の表れと言われています。
また磁器に砂を混ぜ込むことで表現される色味、
表情も精製技術の未熟であった古い時代の磁器を
参照して追及された表現とのこと。

ある種の未熟さを背景に持つ表現を積極的に取り入れつつ、
高い技術で生み出される洗練された造形からは
人の手でしかつくることのできない磁器のぬくみ、不思議な柔らかさが感じられます。

お二人目は和紙のうつわと銀のアクセサリーを製作する大原萌氏です。

これらのうつわは書道家の練習に
使用された和紙が原料となっています。
驚くのは、これらの作品はいつでも原料である
繊維の状態に回帰することができる、
言わばうつわとして“仮止め”された状態であることです。

一つの作品として残り続けるというより、
最終的には土に還るまでの過程の上に仮止めされた和紙のうつわは、
物体でありながら見えない流れの上にたゆたう非常に不安定な存在にさえ思えます。

深い藍色に染まったうつわには、
染色家である鈴木氏のお母様が泥藍染で使用する
甕の底にたまった澱が用いられています。
和紙と同じく、一度役目を終えたものが分解ののち、
転用、再生されるという事はつくることの原理と言えます。

それらの素材が糊と混ざり合い、粘土のようになって、
まさしく土器のように成形される軌跡には原始的な手仕事の
プロセスとの重なりを感じざるを得ません。

歪で、時に荒々しくもどこか儚げにも見えるこれらのうつわから、
つくることの根源的な喜びに満ちた手仕事を見出して頂けますと幸いです。

鈴木氏と大原氏、
お二人の作品はそれぞれ素材も表現も全く別のようでありますが、
不思議な親和性をもって皆さまをお迎えいたします。

鈴木氏の磁土のうつわは
“一つの個性に縛られず創作をする”という
自由によって貫かれることで多様な表現の中に
ひとつの世界観を持っています。
大原氏は、“何かをつくりたいという”欲求が
作品に先立って手を動かすという創作への自由な意思が
ひとつひとつの作品を形作っています。

お二人が手しごとに求める自由のかたち、
こうありたいという意思が引き合うように
この場に作品を集わせたとさえ思えるほどに、
混然となって展示空間を彩ります。

ぜひ、会場で直接ご覧いただき、体験していただければ幸いです。