手仕事のさきへ18
beyond handcrafts
2025年1月10日(金)-1月26日(日)
日東堂は「日本の藝と道具」の
未来を担う作り手を応援しています。
18 回目となる今回は、
滋賀県で作陶する陶芸家 鈴木まどかさんの作品を
展示いたします。
鈴木さんの作品の素材は磁器土。
粘土を素材とする陶器に比べて、
磁器は硬くて薄く、軽いことが特徴です。
鈴木さんの手がける磁器の表現は非常に多彩です。
表面を削って平らな面をつくる面取り、
削ることで稜線模様をつくる鎬(しのぎ)、
型から模様を写し取ってエンボスのように仕上げる陽刻、
透明の釉薬で素地を活かす白磁、
滲んだ絵柄が独特の風合いを作る
安南手(あんなんで) 、など実に多様です。
写真は鎬の施された急須と杯です。
面取りや鎬は磁器の表現として
一般的なものではありますが、
削り具合でシャープな印象にも
柔らかい印象にもなる、
とても奥深い表現です。
凛とした雰囲気を持ちながらも、
優しい印象を感じる鈴木さん独特のバランス感覚は
他の表現にも通じています。
中でも安南手(あんなんで) の作品は、
滲んで少し抽象的になった呉須の絵付けが
おおらかで柔らかい印象です。
安南手とはベトナムから伝来した
陶磁器の技術を指します。
ベトナムでは中国の陶磁器の影響を受けて
古くから白磁や青磁が多く製造され、
独自の表現として定着しました。
鈴木さんは磁器土に砂を混ぜ込むことで、
磁器土の精製技術がまだ未熟であった
古い時代の磁器を参考に、
独自の色味と表情を作品に与えています。
近頃は、もみ殻を一緒に入れて
密閉状態で炭化焼成した作品が
新たに加わりました。
これまでと異なる表現を模索する中で、
修行時代からずっと続けてきた
面取りの作品を見つめ直し、
新たに生まれた作品だそうです。
釉薬をかけた作品でも
個体差はもちろん出るのですが、
この炭化焼成では一つ一つの作品の表情に
さらに大きな変化があらわれます。
特徴的な橙色から黒灰色のグラデーションは
直接的に火を連想させ、
面取りの潔い線と響き合って鈴木さんの作品に
これまでとは全く違う色を与えています。
一人の作家の手から生まれたとは思えないほど
多彩な表現を支えているのは、
丁寧で正確な手仕事と、
様式に捉われすぎない自由な発想です。
作品一つ一つが数えきれない
手数の上に成り立つのと同様、
鈴木さんの作品群の持つ世界観も
数々の発想の蓄積の上に成り立っています。
そして、その源泉の部分は
やはり「手を動かしている時間」が
とにかく好きであるということ。
素直な姿勢から生まれた作品は、
新年の賑やかさがうっすらと尾をひく
一月半ばの様々な場面を彩ってくれるはずです。
ぜひ会場で直接、ご覧いただけますと幸いです。