2022.01.01
期間:2022年1月15日(土)- 1月30日(日)
日東堂は、「日本の藝と道具」の未来を担う作り手を応援しています。
このたびの展示では、安藤萌氏による木の器をご紹介させて頂きます。
なめらかな曲線をたたえたこれらの器はウッドターニングという技法を用いて作られます。
ウッドターニング(wood turning)とは日本語では木工ろくろと呼ばれ、高速で回転する旋盤に木材を取り付け、刃物で削り出して成形する技法です。
ウッドターニングの歴史は古く、国内外問わず広く親しまれている技法ではありますが、一点、安藤氏の作品には大きく異なる点があります。
それは乾燥させる前の生の木を使用することで、成型後に器が変形すること。
通常、ウッドターニングに限らずとも、木工においてはあらかじめ乾燥させた木を用いて、割れや反り、歪みなどの変形が起こらないよう手を尽くすことが前提にあります。
ではなぜ、生の木をあえて使用するのでしょうか。
安藤氏はこれまでに家具の設計・製作など正確さの求められる木の手仕事に携わってこられました。
しかし、そのような緻密で精巧な木工をつくる一方で、木という素材と自身の作為との取り合わせに言い知れない違和感を覚えていたそうです。
またその違和感を抱えつつも、どうしても綺麗に作ろうとしてしまう自身の性質も浮き彫りとなりました。
そんな折、あるきっかけで手元にやってきた生の丸太から器を作ってみたところ、その仕上がりに一つの可能性が見えました。
成型後、乾燥していく過程で予測できない形になっていく木の器は、自身の手を離れ、作品にしみついた作為を中和してくれるようでした。
その後、数々の樹種や、またその部位によって違う変形の度合いと、器としての完成度のすり合わせを試行錯誤を重ねてつくられたものが
今回展示させていただく作品です。
木の変形という、その偶然に任せるだけではただ珍しいだけのものとなってしまい、それ以上でも以下でもありません。
安藤氏によれば、器の完成度は変形前にどのような形にするかに大きく左右されるそうです。
つまり、予測のできない変形を想定する経験に裏打ちされた目の確かさ、またそれを実現できる手の技術が作為と無作為をある種の均衡状態にとどめ、
作品として成立させているのでしょう。
そのような作品を前にすると、あらためて「手仕事」という言葉の意味について考えさせられます。
手でつくる、というときの「手」とはいったいどこまでを含むのか。
ひいては、私がつくるというときの「私」と「私でない部分」の境目はいったいどこなのか。
割れや反り、歪みなどをいかに出さないかという意識の上に技術が積み重ねられてきた、木工におけるこれまでの「手仕事」。
本展では、安藤氏の作品からそのさきの風景、これからの手仕事の在り方も重ねてご覧いただける事と思います。