期間:2023 年11月8日(水)- 11月26日(日)
日東堂は、「日本の藝と道具」の未来を担う作り手を応援しています。
13 回目となるこの度の展示では、
石川県金沢市の陶芸家 シライナギサさんの
作品が並びます。
光沢のないマットな素地に
流れる霧のような模様。
水墨画が立体化したような
印象を持つ人もおられるでしょう。
これらの作品は
磁器土を泥のような液状にした泥漿 (でいしょう) を
石膏で作った型に流し込んで成型する、
鋳込みという技法をベースにつくられています。
鋳込みという製法自体は、
細かな装飾にも対応した量産向きの製法です。
しかし、シライさんは型から取り出した、
まだ固まりきらない作品をひとつずつ、
自身の手で成型することで
作品にゆるやかな曲線を与えています。
まるで貝殻や木の葉がつくるような
やわらかで自然な曲線は、
素材の薄さや強度を直接確かめながらなされる、
手仕事の賜物と言えます。
シライさんの作品のもう一つの大きな特徴は、
白と黒の二色のみで構成される模様です。
「霧流し」というシライさん独自の手法で
生み出される模様は、
流体の純粋な動きによって生み出されています。
そこには刷毛目などに見られるような
手の痕跡は感じられません。
シライさんが独自に調整をした
色違いの泥漿(でいしょう)が
石膏型に流し入れられる際の、
その自然に混ざっていく様子が
作品の模様として現れています。
「霧流し」においてコントロールできるのは
どのくらい反対色を含ませるか、
という選択のみです。
しかし、その重要性は極めて高く、
むしろその少ない手数こそが
図と地のバランスを通して
作品全体の印象を支えています。
また使用色を二色に限定することが、
ちょうど白黒写真がカラーの写真よりも
情景を強く想像させるような形で、
見る側のイメージが入り込む余白を構成する
要素になっている事も非常に興味深いです。
色数や製作における手順を限定し、
手を加えるところと素材の動きに任せることの
バランスを探りながらも、
一つの作品として提出する。
その難しさの上に成り立つ均衡を通して、
われわれは作家の美意識に触れることが
できるはずです。
視覚的な美しさを感じるとき、
われわれの目は無意識ながら、
物理的・心理的に力の均衡が保たれていることをも
美の要素として確かに感じ取っているのでしょう。
そのように一つの手仕事の作品と向き合うとき、
作品は鏡のように自身が何に美しさを感じるか、
という感覚を映し出すものと言えるかもしれません。
ぜひ展示会場でご覧いただければと思います。
お待ちしております。